追出し裁判、最高裁に補充書(2)を提出(11月17日)
1、概要住まいの権利裁判の前々回の9月1日から前回の11月12日までの2ヶ月余りの間、仮設住宅提供の打ち切りを決めた内掘県知事決定の裁量権の逸脱濫用の適否をめぐって、(1)、考慮事項とは何か、(2)、考慮事項を関する事実の立証責任はどちらにあるのか、(3)、考慮事項を関する事実の立証のために前記決定を下した本人たる県知事の証人尋問の採否などについて攻防戦が続いた(以下、原告から提出した書面の一覧)。
その中で明らかになった「考慮事項とは何か」という裁量権の逸脱濫用の適否のために「判断枠組み」についての成果を、先行して福島地裁で始まった追出し裁判の上告受理申立て理由書の補充書として作成し、最高裁に提出しようと、今週17日の朝、提出した(上記の写真と下記の補充書(2))。以下、その簡単な解説。
◆原告準備書面(23) なぜ内掘知事の証人尋問が必要なのか(25.10.15)
◆上申書 10月20日の進行協議で発言の補足(25.10.22)
◆原告準備書面(24)本文+別表1+別表2 準備書面(23)の続き(25.10.27)
◆原告準備書面(25) 立証責任の分配が立証活動に与える影響について(25.11.3)
◆原告準備書面(26) 被告第13準備書面について(25.11.10)
◆上申書 争点整理案の追記(25.11.10)
2、行為規範と評価規範
何事もそうだが、思考にも事前の事前と事後の思考があり、或る出来事が起きて済んでしまってからあとになって振り返る事後の思考(ヘーゲルの思考がその典型)と、これに対し、これから起きる出来事に対して、それをどのように捉えるかという事前の思考とがあり、両者を区別する必要がある。
同様に、法規範にも事前の法規範と事後の法規範がある。或る出来事が起きてしまってからあとになって振り返って当てはめるのが事後の法規範であり、立証責任の定めが証拠調べで立証命題が真偽不明になった場合にあとでこの事態をどう評価するかという事後に働く規範であること、控訴理由書や上告理由書が、既に出された原判決が法律に照らしてどのように評価されるかを問うのがその典型。これに対し、判決が出る前に、見込みや予測なども折り込んで或る行為に法律を当てはめるのが事前の法規範であり、判決前の審理の段階で、主張や立証の要の段階(求釈明や証人申請など)で、それらの行為が法律に照らしどのように評価されるかを問うのがその典型。事後の法規範を評価規範と呼び、事前の法規範を行為規範と呼ぶことがある。
3、本件に「行為規範と評価規範」を応用
この「行為規範と評価規範」を本件に応用したのが、今週17日に最高裁に提出した補充書(2)だった。それは、この2ヶ月間、住まいの権利裁判で、打ち切りを決定した内掘県知事決定の適否を判断するためには内掘県知事決定における考慮事項とは何かについて吟味検討した上で、それらの考慮事項を内掘知事が十分に考慮したか否かについて事実認定した上で、内掘知事が決定に際して誤りをおかしたかどうかを判断する必要があるということを詳細に整理して主張した(上記の準備書面(23)~(26))、その再構成版だった。
なぜなら、上記の法律的主張は、現在、住まいの権利裁判で内掘県知事決定の適否を審理している場合の行為規範として意味を持つだけではなく、既に下級審の判決が下って現在最高裁に係属中の追出し裁判においても、内掘県知事決定を適法と判断した原判決が果して正しいのかどうかを判断する上での評価規範としても意味を持つ。すなわち、行為規範として内掘県知事決定の適否の判断基準として主張した住まいの権利裁判における法律上の主張が、今度は、評価規範として内掘県知事決定を適法と判断した下級審判決を裁く判断基準としても機能することに着目したものだった。
その際、法律審とされる最高裁に注文をつけておきたいことがあった。それが次の「事実問題と法律問題の交錯(相互作用)」という問題だった。
4、最高裁は、現実に起きている生の事実に注視し、これを踏まえて初めて法律問題の正しい解決(法の適用)も可能となることに深く思いを致すべきである
最高裁は法律問題を審理するが事実問題は審理しないとされている。けれど、この命題は実は法律問題と事実問題を仕訳すればよいというほど単純な問題ではない。そもそも法律問題の正しい解決は事実問題の正しい解決を前提にしない限り、つまり事実の正しい認識を基礎におかない限りあり得ないからだ。その限りで、最高裁も法律問題を正しく解くために、否応なしに事実問題と関わらざるを得ない。
この点が問われたのが本件の裁量権の逸脱濫用の有無だ。行政庁の裁量権の逸脱濫用の適否という法律問題を判断するためには、考慮事項について行政庁はどのような考慮をしたのかという事実問題についても検討せざるを得ないからだ。例えば、行政庁が考慮事項については正しく取り上げたとしても、次にそれらの考慮事項に対する考慮の点において、ろくな調査収集しかせずに、いい加減な調査結果の事実に基づいてお茶を濁すような考慮をした(つまり考慮した振りをしただけ)としたら、そのような考慮はいわゆる事実を法に適用する場面において誤りをおかしたものつまり法の適用の誤りと評価されざるを得ない。この法の適用の誤りがあったかどうかはれっきとした法律問題であり、この法律問題を吟味検討するためにはどうしても原審で認定した事実と法(ここでは考慮事項)とを突き合せなくてはならない。その限りで、最高裁も事実と向き合わざるを得ないのだ。
従って、本件で、内掘県知事が打切りの決定を下すにあたって、原告が主張した(少なくとも)次の8個の考慮事項について、最高裁がもしこれらが本来考慮すべき考慮事項であると判断した場合には、考慮事項の考慮において誤りがあったかどうかを判定する(いわゆる法の適用の判断)ためには、これらの考慮事項を基礎づける事実に基づいて県知事がどのように考慮したのか、その考慮の過程についての事実について認定せざるを得ない。その事実認定を経て初めて、その事実と考慮事項とを突きあわせて、内掘県知事の決定の判断過程に誤りがなかったどうかを判断できるからだ。
ところが、追出し裁判の一審において、被告とされた我々は、2022年3月18日付準備書面(被告第9)(>全文PDF)において、打切りを決めた内掘知事決定がその判断過程において、かずかずの考慮事項の誤りをおかしていることを詳細に主張した。
しかし、被告が、打切りの決定にあたって、県知事は「応急仮設住宅の供与の打切りという県知事決定が区域外避難者に及ぼす現実の影響」や「福島県と区域外避難者の間の現実の関係」という生きた現実に即して決定の内容を吟味検討すべきであるという観点から少なくとも次の8個の考慮事項の考慮が必要であると主張したのに対し、一審も二審も裁判所は、審理の中で、これらの考慮事項についても、さらにこれらの考慮事項を基礎づける事実についても一切取り上げず、それゆえ何も検討もしないまま、判決の中で内掘県知事の決定に違法となるような誤りがなかったと判示した。このような原判決が裁量権の逸脱濫用の有無を判断する判断枠組みについて、いかに考慮事項と考慮事項を基礎づける事実に関する法解釈と法の適用を誤まったものか、その結果、審理不尽のいかにいい加減な審理しかしなかったものか、その結果、判決理由としてもいかに不十分、不備なものとしてしか判示されなかったか、が歴然としている。
①.区域外避難者の避難先での生活再建の現状と今後の見通しについて、当事者の区域外避難者からヒアリングした情報
②.もし仮設住宅の提供打切りを決定した場合、それが区域外避難者の生活再建にどのような悪影響を及ぼすのかについて、当事者の区域外避難者からヒアリングした情報
③.仮設住宅の提供打切りを決定する場合、代替住居の提供についてのどのような検討(当事者の区域外避難者からヒアリングも含めて)をおこなったのか
④.そもそも国家公務員宿舎から区域外避難者を退去させる必要があったのか
⑤.どのような目的のために区域外避難者の退去が必要とされたのか
⑥.退去の必要性が認められるとしても、その必要性と区域外避難者が国家公務員宿舎に居住し続ける必要性との比較衡量が不可欠であるので、この比較衡量のための調整手段・方法(例えば、県外に復興公営住宅を建設する)について、どのような調査・検討(当事者の区域外避難者からヒアリングも含めて)を行なったのか
⑦.被ばくによる健康影響について、例えばセシウム 含有不溶性放射性微粒子による健康被害のリスクについて、専門家集団に諮問しどのような調査・検討を行なったのか
⑧.「国内避難民の指導原則」などの国際人権法による避難者の人権保障のあり方について、専門家集団に諮問しどのような調査・検討を行なったのか
5、まとめ
(1)、裁量判断の適否を判断するための法律上の主張のうち、法の適用(ここでは考慮事項の適用)とは考慮事項の基礎となる事実と考慮事項(法規範)とが相まみえる「法律問題と事実問題が交差する交差点」である。そこで、この法の適用を正しく実行するためには、考慮事項の基礎となる事実の正しい認定を踏まえて、考慮事項に関する正しい評価をすることが不可欠となる。本件では、原審で認定した事実を踏まえて、原審裁判所がどのように法(考慮事項)を適用したのか、その適用において誤りをおかしていないかどうかを吟味すること、それが最高裁の本件の審理で最も重要な局面となる。
(2)、この局面の検討をするにあたっては、まだ一審の審理の最中である住まいの権利裁判で明らかになった法律上の主張を、既に原判決まで出揃った追出し裁判の最高裁の審理に応用することが可能である。それは、ひとつの法規範が2つの場面で作用することに着目することによって可能であり、この間の住まいの権利裁判で整理集大成した裁量判断の適否を判断するための法律上の主張を、最高裁に係属中の追出し裁判の原判決を破棄する理由として追加補充する主張として活用した。>全文のPDF

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